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2008年8月

2008年8月19日 (火)

スカイクロラ 視界と機動の件

La5様へ

(長くなったのでコメントではなく独立の記事にしました)

実は私も同じことを感じながら見ていました。

まず散華の視界の件ですが、確かにBf109に似た太い前部キャノピー枠と妙に幅広のメータパネルフードのせいで、前方視界(特に三角窓を通してみる斜め前下方視界)が悪そうです。また、Fw190に似たキャノピーなのに胴体側面に食い込むような形にはなっておらず側方斜め下の視界を軽視しているように見える点も気になります。

しかしよく考えてみると散華はエンテですから前下方視界は良好ですし、3車輪式の場合タキシングや離着陸の際に機体は水平に保たれるので事が多いので、斜め前下方視界はそれほど重視しないでも良いのかもしれません。またコックピットが主翼より前方にあるので空中での下方視界もそう悪くないと思います。

着陸に関して言うと、機体を水平に保ってゆっくりと着地する接線着陸を行う場合、機首を持ち上げて減速する三点着陸に比べて着陸距離が長くなる可能性があります。このため、何かエアブレーキみたいなものを使用するか、長い滑走路をいっぱいに使うかと言うことになるわけです。映画の中で、散華がハンガーに近づいてくる場面ではプロペラを逆ピッチにして後退しているように見えたのですが、もしそうだとすれば、着地後に逆ピッチを切替えてスロットルを開け、プロペラをスラストリバーサみたいに使って減速するのかもしれません。

以上のような事を考えながら映画を見ていたため、パイロット視点やチェイサー視点の離着陸場面などを用いて、細かな描写がなされていればもっと良かったなぁと考えた次第です。

散華の初期スケッチでは最終稿よりもキャノピーが大きく丸っこいデザインがあったようですから、これも「もっと尖ったデザインにするように」と言う監督オーダーがあったのかもしれません。散華のコンセプトは繊細で非常にコンパクトな機体ということみたいですが、キャノピーを大きくすればコンパクトさは簡単に強調できる代わりにユーモラスでかわいいデザインになってしまいます。スパルタンな感じを出すためにあのキャノピーデザインになったのではないでしょうか。

また、自動車の例でも分かるように、キャノピー(サイドウィンドウ)下端の線をどう引くかはデザインの好みが強く現れる部分です。また、単座航空機の場合胴体幅にも依存します。例えばフォッケウルフFw190の場合、コックピットが前方にあった初期試作機ではキャノピーの側面形は普通の形ですが、コックピットを後方へ移動した後期試作機以降ではキャノピーが胴体に深く食い込んだ様な形に代わっています。散華のコックピットは震電よりは前、現代ジェット戦闘機よりは後ろ、の微妙な位置にあります。ここは胴体幅は狭いがラインが前下がりになっているので、Fw190のようにキャノピーの食い込みが目立つ形にはならないのですが、実際の側下方視界は結構良いのではないでしょうか。

次に、運動エネルギー重視の戦術と言う件。「危機一髪を減速機動で一挙逆転」と言うのはトップガンから最近はマクロスFまで、戦闘機アクションではおなじみの演出ですね。これは一対一の決闘であればまあOKですが、現実の空中戦は多対多なので愚策とされているわけです。その意味で言うと、冒頭の空中戦場面は減速機動にいたるまでのエクスキューズがちゃんとなされていたので許容範囲だと思います。

・ 散華①の後方にスカイリーが襲い掛かる

・ 援護の散華②がスカイリーの後方に回り込む

 ・ スカイリーが減速機動で逆転、散華②を撃墜

問題はむしろ、後半のエピソードで草薙とユーイチがそれぞれ単騎でティーチャーに挑むことのほうにあるのではないでしょうか?手ごわい相手であればこそ、複数機で有利に戦うのが空中戦の定石のはずですから、エース級の二人がそろいもそろってセオリーを無視して単独空戦を挑んで自滅するのは少し無理があります。

作戦後のミーティングでスカイリィの動きを「ハーフループ(ハーフロール?)からスナップ気味に・・・」みたいに説明をしていたと記憶しています。これがどんな機動なのか今ひとつ分かりませんが、変形のバレルロールなのでしょうか?また、パンフレットを見るとユーイチが用いたストールターンの解説が出ていますが、これは通常のハンマーヘッドターンの途中で180度ロールして敵機の後方につくもののようです。これらは「単純な減速機動ではなくて、立体的な機動で運動エネルギーを温存しつつ敵機をオーバーシュートさせているぞ」と言う演出上のエクスキューズですが、そうまでして「必殺技で一挙逆転」にこだわる必要が有ったのかどうかは疑問です。

チャック・イェーガーの空戦記には「後方からドイツ機に襲い掛かられたのをバレルロールでかわし、フットバーを蹴る(回転を止める)と同時に1連射で撃墜」と言う場面が有るそうです(「音速への挑戦」(加藤寛))。こういったことはたまたま混戦状態の中で一瞬起りうることですが、冒頭の空中戦場面にはそういったスピード感があるのに対して、最後の空中戦場面は剣豪小説の一騎打ちのごとく「数度の打ち込みで追い込まれた後、必殺技で最後の勝負・・・」と言った流れになっている事がいささか不満でした。

F4Fvsゼロ戦とかメッサーシュミットvsスピットファイアの場合、運動エネルギー重視の戦術と旋回角度重視の戦術の違いを分かりやすく表現できますが、スカイリィと散華の場合、飛行特性の違いがはっきりせずどちらも高速型の機体のように見えます。

設定によるとスカイリィは「凶暴なパワーをもつ怪物」で散華は「きわめてコンパクトで繊細だが暴力的な性能を秘めている」(?)だったと思います。私のイメージではスカイリィ=グッドイヤーF2G、散華=Yak-3と言ったところでしょうか。まるでヘビー級vsフェザー級の対戦ですが、スペックを良く見ると翼面荷重と馬力荷重はそんなに極端には違わないです。こういったケースだと、双方ともエネルギー重視の戦術を用いつつ微妙な飛行特性の差を利用して優位を取ろうと駆け引きを行うことになり、分かりやすく差を表現することは難しいだろうなぁと思います。

(参考)

F2G (*1)

Yak3 (*2)

全長×全幅(m

10.31 m × 12.49 m

8.50 m × 9.20 m

全備重量(kg

6,054 kg

2,692 kg

エンジン

P&W R-4360

クリーモフ

VK-105PF-2

排気量(L(*3)

71.6 L

36.05 L

出力(hp)/高度(m

3000 hp

(緊急3650hp)

1240 hp/?m

翼面積(m^2

29.17 m^2

14.85 m^2

上昇率(m/min

1,342 m/min S.L.

1,111 m/min

(以下は計算値)

翼面加重(kg/m^2

207.5 kg/m^2

181 kg/m^2

馬力荷重(hp/kg

0.496 hp/kg

0.460 hp/kg

翼面馬力(hp/m^2

102.84 hp/m^2

83.50 hp/m^2

出展:

*1: ヴォートF4Uコルセア エアロ・ディテール25

*2: http://ja.wikipedia.org/wiki/Yak-3

*3:  航空ピストンエンジン(ビル・ガンストン)

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2008年8月10日 (日)

スカイクロラ ~印象かディテールか?~

スカイクロラ見てきました。

映画館へ行ったのは何年ぶりだろう?僕は目が悪いので暗くて遠い画面は正直しんどいのだが、音響はさすがだった。家のショボいスピーカーやヘッドホンとは全然違う。

この作品は音響にかなり気を使ったそうだけど、それがよくわかった。たとえばユーイチが草薙に向かってピストルをぶっぱなす場面、バンという破裂音が強烈で、そのあと右の方で薬きょうが転がるチリンチリンという音がしばらく続いているのが印象的だった。我が家のオーディオも見直さなくては。

内容は・・・、なんて言うのかな、「きれいだけどちょっと頽廃的だなぁ」です。

「完全な平和が実現された世界のショーとしての戦争」と言うのは甘すぎると思う。ガンダムOOの「エネルギー問題は解決したけど戦争はなくならない」と言う設定に対するのと同じようなことを感じた。

21世紀初頭現在の人類はむしろエネルギー・資源・水・食糧・居住空間などを奪い合う悲惨な戦いに陥る際のところに居る。

「争う必要もないのに戦争が続く(戦争は人類の宿命)」と言う悲観的な話ではなくて、「生きていくために競合や対立はある程度避けられないけど、戦争以外にも解決手段はある」(制限付きの闘争とか、騙すとか、妥協するとかも含めて)と言う方が現実ではないかな?

さて、本題に入る。(問題は空中戦なんですよ、私にとっては。アッハッハ。)

押井監督は「宮さんには負けない」とか豪語していたとか(当然、紅の豚のこと)。悪くないとは思う、いや思っていた以上の出来だ。でも、(航空マニアが思わず)ニヤッとする場面と言うのは全然なかった(*1)。それと、「空中戦のフィルムをいろいろ研究したんだろうなぁ」とは思ったけれど、「自分で空を飛んでワクワクした感じ」を表現できているとは思わなかった(*2)。

(*1)は紅の豚をみていると気がつくことで、あれには「ここは横滑りを使っている」とか「あ、これはヨアヒム・マルセイユの逸話だ」とか、いろいろウンチク話がたくさん込められているのだけれど、それがスカイクロラにはほとんど見られなかった。

(*2)は機体の揺れとかスピード感や浮揚感のこと。スカイクロラの離陸はすべて、着陸シーンもほとんどが地上視点で、パイロット視点がほとんどない。それと着陸場面ではもっと機体が(ヨー・バンク両方向に)傾いた状態でアプローチして着地の直前に滑走路に正対するとかあってよい。その他、オイルのにおいも、機体の振動も、排気管の熱く焼けた感じも、エンジンを地上運転した時の轟音も、みんな希薄だ。

でも、上記のようなディテールに凝ったからと言って、良い映画になるとは限らない。

アクションは一瞬の印象が大事であり、それは画面の動きの良さで決まると思うので、ここに書いてきたようなあれこれのディテールを描こうとするあまりに動きが遅くなったり表現が冗長になったりでは駄作になってしまう。その辺はベテラン監督と僕のようなただの飛行機オタクとは全然違う点だろう。

だから、スピード感を保ってとにかく画面を止めない表現は良かったと思う。

と言うことで、航空マニア的ディテールは横に置いておけば良いのであって、動きと印象の方は良くできていたと思う。

(でももう少し高高度の空は濃い青で、空間が広く見えるともっと良かったなとは思う。)

あっ、そうそう。

最後の場面で・・・・・・・・・・

「ネタばれ注意」

主人公のクローンが配属されてくるってのは、萩尾望都の「AA´」のパクリだ。

どこかでオチを読んでしまってから見に行ったのは失敗だった。知らなければきっとラストシーンで泣いていただろう。

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