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2009年4月 9日 (木)

F4Uコルセアの着艦問題に関する考察(その4、F4Uの特徴と問題点 尾翼) 

☆ 大迎角時のスピン対策

 全金属製・低翼単葉の時代になって問題になったことの一つが翼端失速だ。複葉機の翼は上下の翼と支柱・張線による一つのトラス構造なので、翼にかかる曲げ荷重を上翼と下翼の距離で受け止めれば良かったが、単葉機では翼付け根部の厚みだけで耐えなければならない。このためテーパー翼が採用されたのだが、レイノルズ数の関係でテーパー翼では薄くなった翼端から失速が始まりスピンを起こしやすい。翼端失速の対策として捩じり下げや前縁スラットが有名だが、同時に改良されたのが尾翼配置だ。
 迎角が大きくなった時に垂直尾翼が水平尾翼の陰に入ると方向安定性が低下し、結果としてスピンに入りやすくなることがわかり、水平尾翼と垂直尾翼を前後に少しずらして配置することが普通になった。零戦の試作機でもこの問題が発生し、水平尾翼を前上方へ移動し、垂直尾翼下端部は大迎角で方向安定性に寄与するように形状を改めた。

図 6 零戦試作機と量産機の違い(水平尾翼を前上方へ移動、垂直尾翼下端を変更)

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 中島の二式単戦や四式戦では垂直尾翼を大きく後方に張り出しているし、Me109では水平尾翼をかなり上方に配置して十字尾翼とでもいった形になっている。一方、F4Uやモスキートでは逆に垂直尾翼を前方に配置している。この場合、水平尾翼を避けると言うだけでなく、機首から胴体上面にそって流れてくる気流を捉えることになる。現代のジェット戦闘機ではこの方が主流でF-5、F-20、F/A-18、Su-27などの例がある。この方法では機体前方で発生した気流の影響を垂直尾翼が受ける。有名なSu-27のコブラ機動は、ストレーキが発生する過流の効果で迎角90°でもラダーの効きが失われないことによって可能となったものだ。F-5後期型およびF-20で採用されたシャークノーズも同様な効果を期待したものだが、こちらは横滑りを起こすと過流がラダーにあたり振動を引き起こす欠点があると言う。
 F4Uの垂直尾翼はかなり前方にあり、プロペラ後流や大迎角時に機首周りで発生する乱流の影響を受けやすかったと言う可能性はある。

☆ ラダーロック

 F4Uの異形ぶりが際立っていることの一つとして方向舵が異常に大きいことがある。バランス部と舵面を合わせると固定部より大きいくらいであり、雷電など日本機の小さな方向舵と比較するとさらに異様に見える。こんなに大きな舵面を採用した理由はプロペラトルク・後流対策らしいが、人力操舵はきびしかったと見えて後になるとスプリングタブを採用している。
 気になるのは、大きく張り出したバランス部が横滑りやプロペラ後流の影響で舵を取られるラダーロック現象を起こさなかったのかどうかだ。F4Uの垂直尾翼は前述のとおり大迎角時には胴体上面に沿った気流を受ける配置だが、これだと迎角が大きくなると最後には垂直尾翼下部は胴体の影になりそうだ。上端だけが気流を受けるとバランス部の割合が大きくなりラダーを取られそうな気がするが大丈夫だったのだろうか?右ラダーを踏ん張りプロペラ後流に抗って機首をまっすぐ保ちながら、最終アプローチでじわじわと操縦桿を引いて行くといきなりラダーを右へ取られる、そんな現象が起こっていた可能性もある(スプリングタブはラダーロック対策でもある)。

図 7 大迎角時のラダーへの気流の当たり方

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☆ 水平尾翼の高さ

 水平尾翼の位置は先述の垂直尾翼との関係の他、ダウンウォッシュや主翼付け根乱流などの主翼後流の影響を避ける必要により決定される。
 ダウンウォッシュすなわち主翼の吹き下ろし気流が水平尾翼に作用することによるアップトリムが失速を誘発する現象を避けるため、低翼単葉機では通常水平尾翼を高い位置に置く。F4Uの逆ガル翼の内翼部は大きく下方に湾曲しているため概ね低翼とみなして良いはずで、特にダウンウォッシュが悪さをした可能性は少ないと思う。
 一方、主翼付け根は中翼に近い位置にあるため、ここから発生した乱流が水平尾翼に悪影響を及ぼした可能性がある。円形断面の胴体に主翼を取り付けた機体としては強風とF4Fワイルドキャットがある。強風の場合は前述のように大きなフィレットを取り付けた。F4Fにはフィレットは無いが、試作機XF4Fでは主翼と水平尾翼が同じ高さに配置されていたものが量産型では高い位置に移動している。

図 8 F4Fワイルドキャット試作機と量産機の違い(水平尾翼を上方へ移動)

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 これに対してF4Uはフィレットが無く、また極端な逆ガル翼のため斜め下方向に主翼が生える独特の形状になっている。大迎角時にここから発生した強い乱流が水平尾翼を叩き、微妙なエレベーター制御を困難にしていたのではないだろうか(図8)。F4Uの構造ではこれ以上水平尾翼を上方に移動するには機体の大幅改修が必要であり、かつ着艦時にのみ発生する問題であるため、着陸時の迎角を制限することで対処したと考えられる。

図 9 ダウンウォッシュと主翼付け根乱流の影響

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