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2009年8月

2009年8月29日 (土)

WW2大戦機の主翼構造の考察(その7、彩雲)

ここまで単発戦闘機の翼ばかりを見てきた。単発戦闘機の主翼は引き込み脚と翼内砲を収めるため、主桁を屈曲させたり開口部によって分断された箱型断面構造を上手くつないだりと様々な工夫がみられるからだ。また燃料タンクの配置も工夫が見られる部分であり、被弾しやすい翼内タンクをあえて採用するか、胴体内重心付近にタンクを設置するためにコックピット・エンジン補機類・胴体内機関銃とのスペースの奪い合いを上手く調整するかも設計者の腕の見せ所だ。これに比べれば双発機や偵察機は主翼の設計の自由度が大きくてあまり面白くないから取り上げなかったわけだ。そんな中で偵察機である彩雲を取り上げる理由は、これがそれまでの4式戦、雷電、紫電改など日本軍単発戦闘機の経験(反省?)を反映した新しい世代の機体に思われるからだ。

図 彩雲の主翼構造

C6n1

彩雲の特徴は厚板構造と大直径プロペラの採用だ(この辺は陸軍のKi-83も同様)。その主翼は2本桁構造であるが、主脚は主桁後方に引き込む。この理由は彩雲が(内翼部に)層流翼を採用しているため、主翼最大厚位置より前方をできる限り平滑に仕上げたかったためだと言う。主脚を主桁後方に引き込むことで主桁前方が付け根から翼端までD型の閉断面構造となっている。この辺はスピットファイアやタイフーン・テンペスト等のイギリス機と少し似ている。

疑問なのは翼付け根の補強方法だ。前縁の閉断面構造は胴体中心線から600mmの位置で途切れているが、主脚引き込み部は326mm位置まで開口しており、前縁が受け止めた捩じり荷重を前後の桁からなる主構造に伝達するためにはこの断面材一枚分300mm程の幅を補強してやらなければならない。例えばスピットファイアの場合は一番内側の断面材が前縁から後桁取り付け金具まで捩じり荷重を伝達するのだが、彩雲ではこの部分が今一つはっきりしない。

彩雲の主翼はインテグラルタンク化されており厚板構造の分小骨(主に縦通材)を減らしているなど強い構造とは言えないため、このまま戦闘機化できるものではない。しかしもしも次世代の日本製プロペラ戦闘機が開発されていたならば、彩雲の主翼構造はかなり影響を与えていたのではないかと思う。

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2009年8月 9日 (日)

WW2大戦機の主翼構造の考察(その6、ハリケーン、タイフーン、テンペスト)

「ホーカー・ハリケーンは英国製戦闘機で初めて低翼単葉・引き込み脚・密閉風防を採用したが鋼管帆布張りの旧態依然とした構造で・・・」と言うのはよく言われることだが、翼は全金属製だ。もっとも、内翼部は応力外皮式のモノコックではなくフレーム構造で、外板は単なるカバーのようだが、少なくとも外翼部は応力外皮式の金属モノコックらしい。

図 ハリケーンの主翼構造

Hawker_haricane

これまで見てきたように、モノコック構造の主翼といえども翼胴交差部では引き込み脚や胴体内タンクのために箱型構造が切れてしまい実質的にフレームで支えている例が多い。また、主脚付け根には着地時に集中荷重がドンと加わるから薄板で作ったモノコック構造といっても部分補強が必要になる。これらのことを考えると、内翼部をフレーム構造としたことは案外合理的だ。また、2本桁構造にもかかわらず主脚は前後の桁の間に引き込む方式だが、これも内翼部が桁間に箱型構造を持つ必要がないフレーム構造であれば合理的な方式だ。
外翼部と内翼部を取り付け金具で接合する3分割構造になっており、胴体フレームが内翼部フレーム上に乗っかるかたちになっている。

図 タイフーンの主翼構造

Hawker_tyhoon

次のタイフーンは全金属製となったが、ハリケーンの影響は残っている。胴体中央部(コックピット部)は鋼管トラスフレームだし、内翼部はフレーム構造に近いようだ(透視図を見ると外翼部の主桁はIビームだが内翼部はトラス梁らしい)。主翼は2本桁構造だが、主脚引き込み部の後方の一部だけ中間桁が加えられている。翼内砲を中間桁と後桁の間に装備しているが、大きなヒスパノスイザ20mm砲がこんなに後ろの位置でも上手く収まるのは機体が大きい上に厚翼のためだろう。主翼は左右分離式で胴体フレームに金具を介して取り付けられている。前桁はエンジンと干渉するのだがキャリースルーがどうなっているのかは不明だ。

図 テンペストの主翼構造

Hawker_tempest

テンペストはタイフーンを薄翼に改めた機体だが、主桁の配置は異なり後桁が大きく前に屈曲して翼内砲機関部の前を通っている。薄翼化にもかかわらず翼内砲が後桁の後方に収まったのは、楕円翼の採用に加えて砲自体も初速を落として機関部を少し小型化したことによるらしい(参考URL:http://www.warbirds.jp/truth/s_gun2.htm)。

1) “世界の傑作機No. 28  ホーカー ハリケーン”、文林堂、2002.1
2) “世界の傑作機No. 70  ホーカー タイフーン/テンペスト”、文林堂、1976.2

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2009年8月 2日 (日)

WW2大戦機の主翼構造の考察(その5、P51、Fw190)

この2機は大戦後半のヨーロッパ戦線の空の主役であり、高性能と生産性を両立させている点でも共通している。

図 P51Dの主翼構造

P51

P51の主翼は二本桁構造で、主翼の上に胴体が乗っかる3式戦に似た方式だ。後桁は後縁付近まで後退しており、中央部付近の厚みが大きい層流翼と併せて翼内空間を確保している。しかし、内側翼内銃を後桁ぎりぎりまで後退させても給弾ベルトが曲げられており結構ゆとりが無い。これは層流翼の最大厚位置に主桁を置こうとして後退させた結果ではないかと思う。

P51ADについてよく言われることとして「左右分割翼で重い割に強度が不足していた」と言うのがあるが、これは本当だろうか?P51の主翼は分割翼とはいえMe109やスピットファイアのような主桁をブラケットで取り付けるものではなく、左右のボックス構造が中央まで伸びて直接接合している。主翼下面中央にミミズ腫れのような突起が一本でているのがそれらしい。同様な形状はおなじノースアメリカン社のAT-6練習機でも見られる(所沢航空博物館にて撮影)。詳細は分からないが多数のボルトを使って固定しているらしい。これならそんなに弱くはないような気がする。一見すると翼胴一体構造に見える日本機でも実際は主桁は何箇所かリベットでつないでいるケースが多いので「分割構造だから弱い(重い)」と決めつけるのは正しくないと思う。

図 AT-6の主翼接合部

At6

AT-6P51と比べるといかにも垢抜けないが、主翼ジョイント以外にも主脚引き込み部の処理とか垂直尾翼の形状とか何となく似ている。ノースアメリカン社にとってP51は初めての戦闘機だったが単発機の構造についてはAT-6の設計で既に十分な経験を積んでいたことがよくわかる。

図 Fw190Aの主翼構造

Fw190a

Fw190の主翼は単桁構造で、箱型構造は胴体接合部(正確には内翼部MG151/20の整備ハッチがあるので断面材2個分外側)で途切れている。左右の主翼を結ぶのは頑丈そうなIビームの主桁一本で、主桁後方胴体内部は燃料タンクのスペースとなっている。

この主桁は主脚に沿うように大きく折れ曲がっており、主翼付け根では最大翼厚部付近に位置しているが、外側に行くにつれて前縁に近くなり外翼部では前縁から後縁まで邪魔もののない広い空間があいている。Fw190の主翼外板は、縦通材をリベット固定したモナカの皮のような上下面外皮を別々に製作し、あとから貼り合わせる独特な構造だ。断面材も上下別々のフローティング・リブが多用されており、固定リブは翼付け根と主脚付け根・翼内砲左右の5枚だけだ。また、意外に外板に開口部が少ない点も目につき、外翼部翼内砲がMG/FFからMG151/20になっても弾倉を90度曲げることで開口部(下面)を極力小さく保っている。どうやら外翼部の箱型構造は本当に外皮だけでもたせる構造だったようだ。

桁材の強度を大きくするためには桁の背を高くする必要があり、主桁を最大翼厚位置に置くのが有利だ。このため通常は主翼翼弦の約1/3の位置に横一文字に主桁を通す(P51は層流翼なのでもう少し後)。しかし主桁前方に主脚を引き込む場合、内翼部の箱型断面構造は主桁から後ろのみとなり剛性中心は後退する。さらにその外側では翼内砲扉によって箱型断面構造が分断されるため、前縁の閉断面構造に荷重を受け渡したり部分的に補強したりする必要がある。Fw190の主桁は主脚に沿って折れ曲がり外翼部では桁背で不利な前縁に追いやられているが、主翼全体でみれば主桁一本で支える翼付け根部から補強入りの外皮で支える翼端部へと連続的に変化しており、同時に剛性中心の後退も防ぐと言う極めて独創的な構造になっている。

<参考文献>

1) “世界の傑作機No. 79  P-51ムスタング、D型以降”、文林堂、1999.11

2) “世界の傑作機 NO. 78 フォッケウルフFw190”、文林堂 1999.09

3) “丸メカニック No.10 ノースアメリカンP51Dムスタング”、潮書房、1978.5

4) “丸メカニック No.26 フォッケ・ウルフFw190A,F,G”、潮書房、1981.1

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