« WW2大戦機の主翼構造の考察(その4、F4F、F4U、F6F) | トップページ | WW2大戦機の主翼構造の考察(その6、ハリケーン、タイフーン、テンペスト) »

2009年8月 2日 (日)

WW2大戦機の主翼構造の考察(その5、P51、Fw190)

この2機は大戦後半のヨーロッパ戦線の空の主役であり、高性能と生産性を両立させている点でも共通している。

図 P51Dの主翼構造

P51

P51の主翼は二本桁構造で、主翼の上に胴体が乗っかる3式戦に似た方式だ。後桁は後縁付近まで後退しており、中央部付近の厚みが大きい層流翼と併せて翼内空間を確保している。しかし、内側翼内銃を後桁ぎりぎりまで後退させても給弾ベルトが曲げられており結構ゆとりが無い。これは層流翼の最大厚位置に主桁を置こうとして後退させた結果ではないかと思う。

P51ADについてよく言われることとして「左右分割翼で重い割に強度が不足していた」と言うのがあるが、これは本当だろうか?P51の主翼は分割翼とはいえMe109やスピットファイアのような主桁をブラケットで取り付けるものではなく、左右のボックス構造が中央まで伸びて直接接合している。主翼下面中央にミミズ腫れのような突起が一本でているのがそれらしい。同様な形状はおなじノースアメリカン社のAT-6練習機でも見られる(所沢航空博物館にて撮影)。詳細は分からないが多数のボルトを使って固定しているらしい。これならそんなに弱くはないような気がする。一見すると翼胴一体構造に見える日本機でも実際は主桁は何箇所かリベットでつないでいるケースが多いので「分割構造だから弱い(重い)」と決めつけるのは正しくないと思う。

図 AT-6の主翼接合部

At6

AT-6P51と比べるといかにも垢抜けないが、主翼ジョイント以外にも主脚引き込み部の処理とか垂直尾翼の形状とか何となく似ている。ノースアメリカン社にとってP51は初めての戦闘機だったが単発機の構造についてはAT-6の設計で既に十分な経験を積んでいたことがよくわかる。

図 Fw190Aの主翼構造

Fw190a

Fw190の主翼は単桁構造で、箱型構造は胴体接合部(正確には内翼部MG151/20の整備ハッチがあるので断面材2個分外側)で途切れている。左右の主翼を結ぶのは頑丈そうなIビームの主桁一本で、主桁後方胴体内部は燃料タンクのスペースとなっている。

この主桁は主脚に沿うように大きく折れ曲がっており、主翼付け根では最大翼厚部付近に位置しているが、外側に行くにつれて前縁に近くなり外翼部では前縁から後縁まで邪魔もののない広い空間があいている。Fw190の主翼外板は、縦通材をリベット固定したモナカの皮のような上下面外皮を別々に製作し、あとから貼り合わせる独特な構造だ。断面材も上下別々のフローティング・リブが多用されており、固定リブは翼付け根と主脚付け根・翼内砲左右の5枚だけだ。また、意外に外板に開口部が少ない点も目につき、外翼部翼内砲がMG/FFからMG151/20になっても弾倉を90度曲げることで開口部(下面)を極力小さく保っている。どうやら外翼部の箱型構造は本当に外皮だけでもたせる構造だったようだ。

桁材の強度を大きくするためには桁の背を高くする必要があり、主桁を最大翼厚位置に置くのが有利だ。このため通常は主翼翼弦の約1/3の位置に横一文字に主桁を通す(P51は層流翼なのでもう少し後)。しかし主桁前方に主脚を引き込む場合、内翼部の箱型断面構造は主桁から後ろのみとなり剛性中心は後退する。さらにその外側では翼内砲扉によって箱型断面構造が分断されるため、前縁の閉断面構造に荷重を受け渡したり部分的に補強したりする必要がある。Fw190の主桁は主脚に沿って折れ曲がり外翼部では桁背で不利な前縁に追いやられているが、主翼全体でみれば主桁一本で支える翼付け根部から補強入りの外皮で支える翼端部へと連続的に変化しており、同時に剛性中心の後退も防ぐと言う極めて独創的な構造になっている。

<参考文献>

1) “世界の傑作機No. 79  P-51ムスタング、D型以降”、文林堂、1999.11

2) “世界の傑作機 NO. 78 フォッケウルフFw190”、文林堂 1999.09

3) “丸メカニック No.10 ノースアメリカンP51Dムスタング”、潮書房、1978.5

4) “丸メカニック No.26 フォッケ・ウルフFw190A,F,G”、潮書房、1981.1

|

« WW2大戦機の主翼構造の考察(その4、F4F、F4U、F6F) | トップページ | WW2大戦機の主翼構造の考察(その6、ハリケーン、タイフーン、テンペスト) »

軍事」カテゴリの記事

コメント

Fw190とっても好きな機体なのですが、
Gが掛かった時の主翼の変形が失速特性に
影響を与えていた様な記述があります。
http://www.geocities.com/hlangebro/J22/Aerodynamics.htm

捻り下げの効果が無くなる様な弾性変形を
していたとすると、実機は中々タンクさんの
思惑通りの剛性中心には成って居なかった
のでしょうかねぇ。。

投稿: TAK | 2009年10月 6日 (火) 01時29分

TAKさまへ。貴重な情報をありがとうございます。本当に面白い論文です。何といってもオリジナル図面に当たってきちんと寸法を採って計算している点がすごいです。
さてFw190の件ですが、おっしゃる通り「だめじゃん、クルト・タンク!」といった感じです。Fw190が急旋回時に突然失速すると言うのは聞いたことが有ったのですが(*)、それが離着陸時には現れない特異な現象であるというのは初耳でした。

*「P51ムスタング空戦記」(ジェイムズ・A・グッドソン)、早川書房、1993.5.20、p151-152

Fw190の主翼構造を見ていて感じたのは、この翼が一般的なイメージとは逆に良く撓むしなやかな構造だったらしい、ということです。特に翼内砲収納区画より外側は主桁も細く、いかにも柔らかそうに見えます。そこまでは素晴らしい設計思想ですが、それで仰角が狂って捩じり下げの効果が弱まるのではマズイです。もっとも、外翼部は捩じっていなくて仰角一定と言うのも不思議な設計です。また、他のP51等の翼を見ても、剛性中心がかなり後にありそうな感じで、同様の問題が起こらなかったのかと言うのも興味深いところです。

P51と言えば、この主翼も不思議な点だらけです。翼端では仰角がマイナス?しかも翼付け根の前縁張り出し部もマイナス?いったいどこで揚力を発生しようと言うのでしょう。P51の尾翼はD型前期まで2°上向き(ダウントリム)だったそうですが、これでは主翼と尾翼の角度差が無くなってしまい、いかにも縦不安定になりそうな感じです(ダウンウォッシュを考慮するとこれで対気仰角0°となるのかも知れません)。

他にも、P51の縦トリムが速度によって変化したこと、レザーバックのP51Bや非ガーランド風防のFw190Aのキャノピー廻りの圧力分布がなだらかなこと、楕円翼や層流翼の独特な揚力分布など、興味深い話ばかりでとても勉強になりました。

まずは、お礼まで。

投稿: SeaFurry | 2009年10月 9日 (金) 22時41分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/212363/45816065

この記事へのトラックバック一覧です: WW2大戦機の主翼構造の考察(その5、P51、Fw190):

« WW2大戦機の主翼構造の考察(その4、F4F、F4U、F6F) | トップページ | WW2大戦機の主翼構造の考察(その6、ハリケーン、タイフーン、テンペスト) »