« 事業仕分けについて、もう一言 | トップページ | 普天間問題について ~日本はいずれ沖縄を失うだろう~ »

2010年2月 7日 (日)

JSF-35は何故混迷したのか?

JSF(Joint Strike Fighter)-35プロジェクトはかなり深刻な状態だと言うことだ。
やれ推力不足であるとか、オバマ政権がエンジン改良予算をカットしたとか、と騒がしい。
ハイ・ロー・ミックス構想でF-15の補助として開発されたF-16の成功を知る眼には今回のF-35の陥った窮状は意外だったのだが、なぜそうなったのだろうか?
以下の三つの視点から分析してみたい。

(1) プロジェクト開始時のリスク管理
(2) プロジェクト進行時のリスク管理
(3) マルチロールファイターの限界

(1) プロジェクト開始時のリスク管理
「未完成の新型エンジンをあてにして機体開発をするな」と言う警句が有る。日本の誉、アブロマンチェスターのヴァルチャーX、He177のDB606などが有名だ。現代の軍用機であれば機体・エンジン・ウェポンシステムの3つのうち少なくとも1つかできれば2つまで確立した技術を用いたいところだ。
また、新規技術領域の研究開発と実施調達を一気にやってしまうのはリスクが非常に高い。F-16とF/A-18を産んだLWF計画は「調達を前提にしない」と言う珍しいものであったが、空海両軍は機能を削ぎ落としたプロトタイプ軽戦闘機をよく吟味して、それぞれの要求性能を付加した機体を開発することができた。この例に倣った結果かどうか知らないが、最近ではタイフーンやラファールのように「先に実証機ありき」の考え方でデモンストレーターが製作されるケースが多く、少なくとも計画途上なのに生産ラインを組んでしまうようなことは無くなった。
これらの例と比べると、F-35に対して米空軍・海軍・海兵隊(および英国海軍)が求める性能はかなり異なる上に、採用予定のF-135エンジンはベースとなるF-119よりさらに高推力である、と言うリスクの高いものであったにも関わらず、デモンストレーターの飛行前から各軍の開発計画を一本化してしまった。

(2) プロジェクト進行時のリスク管理
逆説的に聞こえるだろうが、開発リスク管理の手段としては国際共同開発が良いと思う。参加各国の要求仕様を受け入れたため重量過大となったと言われているが、実は少し違うのではないかと筆者は思っている。
Wikipediaによるとイギリス以外の各国の参加はSDD(System Development and Demonstration; システム開発実証)段階以降であると言うことだ。しかし、デモンストレーターが飛行している段階ならば機器・兵器・燃料の追加積載に伴う性能低下は正確に予測できるはずで、各国の要求に対してもトレードオフと限界を示して説得することができたはずだ。したがってこうなったのは、きちんとした説明をせず甘い予測を示して参加国を増やそうとした結果ではないのか。
むしろ、参加国の脱落や不協和音によってプロジェクトの問題発生を各国の納税者がいち早く知ることができると言うのは国際共同開発の利点だと思う。

(3) マルチロールファイターの限界
マルチロールファイターの起源は第二次世界大戦後期の戦闘爆撃機あたりから始まると言われているが、特に第四世代以降の戦闘機は膨大な余剰推力・余剰揚力と強度をもつことと電子機器が高度化・小型化したことが組み合わさって高度な攻撃・偵察任務を兼務できるようになった。しかしこのことは一方で、余剰推力と余剰揚力を損ねるような要求やこれらの優位性だけでは解決できない任務をマルチロールファイターに求めるなら、何かを犠牲にするか新たな技術革新が必要になると言うことでもある。
具体的に言うと以下のものが挙げられる。

・小型空母や高速道路への離発着などによるサイズ・重量の制限(ラファール、グリペン)
・艦上機や近接支援機に求められる低速度性能(F/A-18、A-10など)
・超音速時の造波抵抗を増やす過剰な胴体内容積(ステルス機のウェポンベイ)
・大迎角時のエンジン性能や失速特性を損なうような特殊な形状(A-10、F-117など)
・近接支援において必要となる迅速な弾薬搭載や整備補修を困難にするようなデリケートなメカニズムや材料(F-22の電波吸収材料やハッチ類)

F-22、ラファール、グリペン、F/A-18は無論立派なマルチロール機だが、いずれも他国・他軍との共同開発が困難な独自開発の機体であることを思い出してもらいたい。

F-35の開発目標はF-16、F/A-18、A-10、AV-8の4機種を代替し、さらにステルス性を付与することだが、これにはかなり無理がある。
まずF-16とF/A-18だが、この2機で最も違うのは臨界マッハ数の選択だろう。F-16の主翼は45度の前縁後退角をもつクリップドデルタ翼を採用している。これは低速での旋回性能と遷音速~超音速域での加速性能のバランス点を求めてシミュレーションを繰り返した結果である。一方、F/A-18は27度と浅い前縁後退角を持つ大きな主翼とストレーキの組み合わせにより低速大迎角で優れた失速特性をもち空母離着艦やドッグファイトにおいて優れているが、同時に試作機からスーパーホーネット登場に至るまで常に超音速域での加速性能不足に悩まされてきた。
もっと極端な例として、ミラージュ2000は58度の前縁後退角を持つ純デルタと単純な構造の一軸ターボファンエンジンSNECMA-M53の組み合わせながら優れたエネルギー性能によりF-16に負けない空戦能力を持つと言われている。
この様に、余裕の少ない軽戦闘機にとって臨界マッハ数の選定は特に重要な意味を持つが、ステルス性能や空母離着艦性能の要求はしばしば設計の自由度を奪う原因になりマルチロール機の共同開発においては厄介な要素と言える。

近接支援任務とステルス性能も矛盾するものである。イラク戦争におけるA-10は低速ゆえにF-16以上の正確な地上攻撃を可能としたし、海兵隊の使うAV-8は重火器や戦闘車両の不足する海兵隊の強襲揚陸作戦において「空飛ぶ砲兵」として地上部隊を支援するものである。いずれの任務でも急造りの前線飛行場から大量の弾薬を抱えて離陸し、敵味方の混在する流動的な最前線で目標を識別して正確に攻撃する能力が求められる。また、繰り返し攻撃を行うことが多いため、前線基地で迅速に補修整備や弾薬補給ができるターンアラウンド性能も求められる。
こう言ったケースでは胴体内のウェポンベイは無用の長物だし、デリケートな扱いを必要とする電波吸収コーティングやハッチ類も手間を増やすだけの代物である。A-10のエンジン配置はIRステルスの一種であるし、チャフ・フレアの大量携行・自動射出や、バイタルエリアへの重装甲、重要システムの多重化など、F-22の高度な対電波ステルスとは異なる攻撃機なりの身の守り方が有る。

筆者は単なる軍オタであり航空技術の専門家ではないから以下の分析は単なる素人の推測ではあるが、F-35が陥った問題は単なる重量過大ではなくて太い胴体と低い臨界マッハ数に起因する超音速域での抵抗過大なのではないだろうかと考えている。
非ステルス機であれば追加の燃料弾薬装備はパイロン懸架かコンフォーマルパレットとすれば良いのであり、「素の状態ではこれだけ素晴らしい性能を持っています。お客様の要求仕様を満たそうとすればこれだけの性能低下となりますが、将来のエンジンの改良が実現すればその問題も解消いたします」と説明できるが、ステルス機の場合は始めの設計段階から多量の燃料弾薬を機体内に搭載することを前提として太い胴体としなければならないから、搭載量も航続距離も少なくて済む顧客にも太くて重い機体を売りつけることになる。F-22の場合、双発であるからエンジン間の空間および屈曲するインテークダクト間の空間をウェポンベイにすれば胴体断面積の増大は防げるが、単発のF-35の場合そうはいかずエンジンの左右にウェポンベイを置くことになる。
さらに、F-35の主翼は後退角が小さい。ステルス性を考慮すると主翼のみの後退角変更は好ましくないから、これは恐らく海軍型を前提にして機体全体が低い臨界マッハ数を前提に設計されていると言うことなのだろう。臨界マッハ数が低いと言うことは音の壁が比較的遅い速度にあるのでそれを越えてしまえば造波抵抗は小さくなるのだが、F-135単発のF-35の場合はミリタリーで推力不足、A/Bで燃料消費過大と言うことで行き詰っているのではないだろうか。

|

« 事業仕分けについて、もう一言 | トップページ | 普天間問題について ~日本はいずれ沖縄を失うだろう~ »

軍事」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/212363/47507096

この記事へのトラックバック一覧です: JSF-35は何故混迷したのか?:

« 事業仕分けについて、もう一言 | トップページ | 普天間問題について ~日本はいずれ沖縄を失うだろう~ »